今回は、MLBロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手について書いていきます。
現在、メジャーリーグで活躍中の大谷選手ですが、2023年3月のWBCの試合前に行ったチームメイトへの32秒間の名スピーチ「僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう」によって、侍ジャパンを優勝に導いた話は有名ですよね。
この短いスピーチは単なる精神論ではなく、「ペップトーク」というコミュニケーション理論を用いているのです。
大谷選手が使いこなすペップトーク、そして前向きな言葉の力を通して、周りの人や自分自身をポジティブに変える「言葉のテクニック」を知りたい方は、ぜひ最後まで見ていただけると嬉しいです。
大谷翔平が行ったペップトークとは?
ペップトークとは、スポーツの試合前や試合中に監督やコーチが行う、選手たちを鼓舞するための短い激励のスピーチのことで、スポーツの場だけでなく、学校や家庭、会社でも使われているコミュニケーションスキルです。
シンプルでポジティブな言葉を使い、短くわかりやすく伝える話し方なので、日常で相手を励ます時にも使えます。
また、相手に対してだけでなく、自分自身に前向きな言葉をかけることを「セルフペップトーク」というそうです。
ペップトークの基本構成を大谷翔平のスピーチで解説

まずは、大谷選手がWBCの時に、ロッカールームで行ったペップトークの全文をご紹介します。
僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう。
ファーストにゴールドシュミットがいたり、センターを見ればマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり、野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思う。
憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。
今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。
さあ行こう!
ペップトークには構成があり、受容→承認→行動→激励となります。
受容(今の状況を認める): 「誰もが聞いたことがあるような選手(憧れてしまう選手)がいる」
承認(これまでの努力を認める): 「僕らは今日超えるために、トップになるために来たので」
行動(してほしいことを伝える): 「今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」
激励(背中を押す): 「さあ行こう!」
このように当てはめることができます。
段階を踏みつつ、簡潔で伝わりやすい言葉を選んで話していますよね。
ペップトークはもともと多国籍国家であるアメリカ発祥なので、さまざまな言語が入り混じる中で、伝えたい内容をきちんと伝えるために、シンプルな言葉を使う必要があったのだそう。
短くてわかりやすい言葉を使って、相手のやる気を引き出すペップトークは、子育てや教育の場でも注目を集めています。
家庭でのペップトークの大切さ
子どもが勉強や宿題に取り組まないと、ついつい「やりなさい!」と命令口調になってしまいがちですよね。
こういった場合にペップトークを用いることで、子どもを励ましやる気を引き出しつつ、親の要望を伝えることができるのだとか。
例えば、宿題をやらない子への声かけではまず「宿題多いね」と現状を受け入れてやります(受容)。
次に、「でも、これだけ宿題が出されるくらい、1年生のころより賢くなったってことか。すごい!」とポジティブに変換し認めます(承認)。
次に、「まずは1ページやってみようか」や「どれから始める?」と具体的な行動を促します。
そして「あなたならできる!」「困ったら相談してね」など激励の言葉をかけて完成です。
私が子どもの頃は、「さっさとしなさい」とか「困るのは自分だよ」とか「どうしてできないの?」とか言われていましたが、こういった言葉でやる気が出たことはありませんでしたね。
どんな言葉を掛けると効果的かは子どもの性格にもよるかと思いますので、一概にこうとは言えないのが難しいところですね。
しかし、頭ごなしに否定しないという点は、とても重要なのではないでしょうか。
まずは現在の状況を受け入れて、こうしたらどうかという行動を提案し、そっと背中を押して行動を促す。
感情的になってしまう気持ちはよくわかりますので、冷静にこの一連の思考をこなせる自信はありませんが、実践する価値は十分にあるほど素晴らしい技術だなと思いますね。
なぜ大谷翔平の言葉は「刺さる」のか?
WBCでのペップトークに限らず、大谷選手の言葉には常に前向きな気持ちであふれています。
例えば、
「人生が夢を作るんじゃない。夢が人生をつくるんだ。」
「周りからは失敗に見えることでも、僕からしたら前へ進むための段階という場合があります。決して、後ろに下がっているわけではない。」
「無理だと思わないことが一番大事だと思います。無理だと思ったら終わりです。」
「どうしてできないんだろうと考えることがあっても、これは無理、絶対にできないといった限界を感じたことは一度もありません。」
「僕の才能が何かと考えたとき、それは伸び幅なのかと思いました。」
といった言葉ですね。
これらの言葉に共通するのは、
- 難しい言葉を使わない
- 否定をしない
- 未来に目を向けている
- 自身を励ましている(自己肯定感が高い)
という点です。
日常的にペップトークの要素を取り入れていることがわかりますよね。
他人との比較ではなく、自分との比較を徹底しており、「去年より後退することはありえないし、してはいけない」という大谷選手の言葉にも表れているように、誰かに勝つことよりも昨日の自分を超えていくという視点が、本当に素晴らしいところだと思います。
やるべきことをやって、目の前のことに集中し、昨日の自分より少しでも前へという気持ちで進むという、誰でもできそうなシンプルな行動を、誰よりも高いレベルで学生の頃から実行し続けているのですよね。
当たり前のことをコツコツとこなす姿と等身大の言葉が、自分にもできるかもしれないという勇気を、たくさんの人に与えているのではないでしょうか。
スピーチに隠された「前向きな」3つのテクニック

ここでは、大谷翔平選手が実践している、前向きなテクニックを3つ解説していきます。
視点の転換(リフレーミング)
リフレーミングとは、物事を違う視点で捉えて前向きに考えるという思考法です。
例えば、コップに半分注がれた水を見て、「もう半分しかない」と考えるのではなく、「まだ半分もある」と捉え方を変化させるのです。
大谷翔平選手もこのリフレーミングを使って、試合中の劣勢の場面を切り抜けたことがあるそう。
2023年のWBC準決勝で、相手のスリーランホームランで追い込まれた状況で「こんな簡単に世界一になったら面白くないよね。こういうのがあるから世界一は価値がある。さあ行こうぜ!」とチームを勇気づけ、結果、逆転サヨナラ勝ちにて決勝に進むことができましたのだとか。
ピンチをチャンスと言い換えるだけでなく、今この時を楽しもう!と意識を変えることで、自分も含め仲間たちの士気を上げ、勝利を掴みに行ったということですね。
この思考法は、ポジティブシンキングと似通っていますが、どのような違いがあるのか、簡単に見ていきましょう。
ポジティブシンキングとは:物事を前向きに捉えること
例えば、仕事で失敗をしたとして、「次はきっとうまくいく!」「これは成長のチャンスだ!」と意識的に明るい側面に目を向け、前向きな感情を選び取ることで、精神的なエネルギーを高め、モチベーションを維持するのに効果的です。
しかし、辛い現実やネガティブな感情から目を背けて無理をしすぎると、かえってストレスが溜まることがあります。
いわゆる、ポジティブの押し付けのことですね。
私もどちらかというと、マイナス思考に陥りがちですので、何でもかんでもポジティブに考えるというのは現実的ではないなと思いますが、あまりに悲観的すぎても前に進めないので、ネガティブとポジティブを行ったり来たりしている感じでしょうか。
普段どんなに明るい人でも落ち込むことはありますし、ポジティブが正しいとかネガティブが間違ってるとかではなく、両方を受け入れて、自分なりに消化できればよいのではないかとも思いますね。
リフレーミングとは:物事の見方(枠組み)を変えること
物事や出来事そのものは変えずに、別の側面から見るとどういう意味があるのか?という”枠組み”をずらすという考え方です。
感情を無理に上げようとせず、事実を客観的に様々な視点で捉え直すという点が、ポジティブシンキングとの違いかと思います。
精神面で無理をしないため、ネガティブな感情を抱えたままでも実践できますし、冷静な判断や新しい解決策を見つけやすくなります。
ポジティブシンキングでも挙げた例のように、仕事で失敗したとして、「自分の未熟さが分かった」と”反省”の枠組みで捉えるか、「新しい経験ができた」と”勉強”の枠組みで捉えるか、「仕事で失敗した」という事実はそのままに、視点をどう変えるのかがリフレーミングのポイントです。
しかし、すでにパターン化している思考法を変えていくのは、言うほど簡単ではないかと思います。
今の自分自身の価値観というか、これはこうだという決めつけや思い込みから離れなければならないのですから、日々の習慣づけが大切になってきますね。
まずは、自身が欠点だと思っている点を置き換えてみるのはいいかもしれませんね。
例えば私の場合だと、
- ささいな事で悩んだり考え込んでしまう→細かいところに気が付ける
- 人の顔色をうかがってしまう→よく周りを見ていて気が利く
- 優柔不断でなかなか行動できない→慎重で用心深い
- 人付き合いが苦手で口下手→深く考えることができて聞き上手
などですね。
「私はなんてダメなんだ」と落ち込む前に、リフレーミングのことをはっと思い出して実践できるよう心掛けていきたいと思います。
一体感を生む主語を使う:I(私)ではなくWe(私たち)

大谷翔平選手のスピーチ力には、主語の選び方もあると考えられます。
例えば、2024年にドジャースが3連敗した時のインタビューでは、「みんな必死になってやっているので、切り替えていくしかないと思います」と答えており、大谷選手個人に対する質問に対しても、チームの”みんな”のプレイや状況を客観的に見た発言に置き換えています。
”私”ではなく、”私たち”の視点で話すことで、聞き手も自分事として捉えやすくなり、共通の目的をもつ仲間であるという一体感を出すことで、チームの士気を上げているのです。
これは、巻き込み話法とも言うそうで、経営者などのリーダーが用いることが多く、”私”を主語にして語りかけるよりもずっと効果的なスピーチになるそう。
特に欧米のリーダーたちは、
オバマ大統領は2009年1月20日の就任演説で、「we」を62回、「our」を68回、「us」を23回も使いました。
バイデン大統領の演説の巻き込み話法です。彼は勝利演説でも、就任演説でも、就任後100日目の演説でも、すべてに巻き込み話法のwe を使っています。
引用:東洋経済
このように巻き込み話法を使いこなしているようです。
大谷選手もチームリーダーとして、この話法を意識しているのではないでしょうか。
チーム一人一人の意識はもちろん大切ですが、仲間と様々なことを共有し、一丸となって取り組む環境作りも不可欠なのだろうなと思います。
聞き手視点を意識して話す
2024年4月のトロントの試合で、大谷翔平選手が対戦相手のブルージェイズファンにブーイングを浴びせられた話は、皆さんもご存じかと思います。
そのブーイングに対しての大谷選手のコメントが、まさに聞き手視点となっているのです。
これだけ多くの人に入ってもらって、なんていうんですかね、自分のチームを好きだからこそ、相手のチームのそういう選手にブーイングしたりとかすると思うので。
そういう熱量っていうのは別にドジャースファンでもブルージェイズのファンでも、野球好きなんだなっていう、そういうリスペクトに、逆に感じるところかなと思います。
引用:日刊スポーツ
ブーイングの理由は、2023年オフに流れたブルージェイズへ移籍するという誤報によるものですが、理由はなんであれ、聞き手であるブルージェイズファンは、大谷選手によい感情を持っていない可能性がありますよね。
そんな聞き手の状態、「自分が聞き手としてこの話しと聞いていたとしたら」ということを考えた上で、このようなコメントを出しているのです。
たとえ私が大谷選手と同じ質問をされたとしても、自分がどう思ったかを答えていると思うので、内容によってはさらに反感を買ってしまいそうですよね。
ちなみに、このブーイングに対しては、SNSでは様々な反応がありましたが、少しだけ紹介しますね。
あり得ないほどのブ―イング。来てくれてうれしくもあり、複雑なブルージェイズファン😅
— みっちっち (@ichinoito3nui) April 26, 2024
うちのチームに来てくれなかったからブーイング!って逆に愛されてる気もするけど
— ひもの (@himono0607) April 27, 2024
まとめ
大谷翔平選手が使いこなすペップトークとは、選手たちを鼓舞するための短い激励のスピーチのことで、学校や家庭、会社でも使われているコミュニケーションスキルです。
大谷選手の前向きな言葉のテクニックは、
- リフレーミング
- ”私たち”weを主語とする巻き込み話法
- 聞き手視点で考える
大谷翔平選手のスピーチが力強いのは、彼自身がその言葉を誰よりも信じているからではないでしょうか。
また、テクニックはもちろん、前向きなマインドの大切さも身に沁みますね。
どうしてもネガティブに考えがちな方は、1日1回、自分や周りに「ペップトーク」を届けてみるとよい効果があるかもしれませんね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。


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